『脳卒中トータルマネジメント~脳卒中後疼痛を中心に~』2024年10月23日(水曜日)小松市、能美市、加賀市学術講演会
2024年10月23日(水曜日)小松市、能美市、加賀市学術講演会
特別講演 『脳卒中トータルマネジメント~脳卒中後疼痛を中心に~』
演者:埼玉医科大学国際医療センター 脳神経内科・脳卒中内科 教授 加藤 裕司先生
座長:東病院 院長 東 良 先生
あまり聞くことのない、脳卒中後疼痛を中心にお話頂きました。非常に多岐にわたる病態が原因となっており、頭を整理するのが大変でしたが、とても勉強になりました。
◆脳卒中は、1950年代から1980年代初頭まで、日本人の死因の一位であったが、医療の進歩に伴って、現在は四位(約6.6%)までさがった(一位:がん、二位:心疾患、三位:老衰)。しかし2023年の時点で104,518人の日本人が脳卒中で亡くなっている。
◆脳卒中を生き延びた患者さん(ストロークサバイバー) は日本で約115万人いる。多くは65歳以上だが、約15%は20-64歳(約18万人)である。
◆40‐64歳で要介護状態の方の約半数は脳卒中が原因である。
◆心原性脳塞栓症は脳卒中の中で最も予後が悪い。そのほとんどは心房細動が原因であり、抗凝固剤であるDOACの普及は心房細動由来の脳塞栓症を減らした。
◆80歳以上の高齢者の脳卒中は心原性脳塞栓症が最多であるが、年齢が上がれば上がるほど、出血の懸念から抗凝固剤の使用が少なくなる傾向がある。
◆DOACは高度腎機能低下患者(Ccr<15ml/min)では使用できない。
◆日本で行われたELDERCARE-AF 試験において、従来の用量(30-60㎎)のエドキサバン(リクシアナ)を使用できない高齢心房細動患者で15㎎のエドキサバンを使用したところ、プラセボに比較して脳塞栓症を減らし、大出血の発生率が有意に高くなることはなかった。
◆80歳以上の心房細動患者で、①重要臓器での出血の既往 ②低体重(45kg以下) ③Ccr 15~30mL/ min ④非ステロイド性消炎鎮痛剤の常用 ⑤抗血小板剤の使用のいずれかに当てはまる場合、エドキサバン15㎎を使用することが推奨される。
◆脳卒中後疼痛(Post-Stroke Pain:PSP)は,脳卒中を発症した患者の約43%が経験する痛みで患者の日常生活やリハビリテーション過程に大きな影響を与える。
◆脳卒中後疼痛には次のようなものが含まれる。①筋骨格痛 ②肩関節痛 ③有痛性痙縮 ④肩手症候群(複合性局所疼痛症候群:CRPS) ⑤視床痛(中枢性脳卒中後疼痛:CPSP)
①(脳卒中後の)筋骨格痛:約40%に生じるとされ、脳卒中後疼痛のなかで最多。
②(脳卒中後の)肩関節痛: 脳卒中後の麻痺や筋力低下のため、腕の重みにより上腕骨が引っ張られ、上腕骨と肩甲骨肩峰下面との間に隙間ができる(亜脱臼)。この部分に起こる炎症などにより痛みを生じると考えられている。
③有痛性痙縮: 脳卒中による上位運動ニューロン障害により、筋の過剰収縮を抑制することができなくなり、麻痺肢の筋緊張が不随意かつ病的に高まるために生じる。痙縮による姿勢異常が長く続くと、筋肉や関節が固定されてしまう(拘縮)。治療として、筋弛緩剤のバクロフェン、チザニジン内服やボツリヌス毒素の筋注が行われる。
④肩手症候群:脳卒中後、主に麻痺側の肩と手に発症する痛みと浮腫、発赤、運動障害などの一連の症状を指す。反射性交感神経性ジストロフィー、カウサルギーなどの名称でも呼ばれる。複合性局所疼痛症候群(CRPS)の範疇に含まれる。CRPSは、感覚神経の興奮により、運動神経、交感神経も高まることにより生じ、神経損傷の度合いや範囲を超えて、激しい痛み(自発痛、痛覚過敏、アロディニア:少し触れただけで激しい痛みが起こる)が生じる。疼痛の程度に応じてコルチコステロイドの低用量経口投与が行われる。
⑤視床痛(中枢性脳卒中後疼痛:CPSP):脳卒中患者さんの約8%に、発症1~2ヵ月後、麻痺肢に耐え難い痛み(灼熱感や刺すような痛み)が出現する。異常感覚、感覚鈍麻、アロディニアもみられる。視床病変によるものが多いが(11~30%)、大脳病変でも起こる(約4%)。視床痛は、触覚、温度覚や精神的な情動で容易に誘発される。視床、特に後外側腹側核(VPL)は体性感覚の中継点であり、痛覚を抑制・調整する役割を果たすが、この部分の損傷により起こる神経障害性疼痛であると考えられている。治療としては、神経障害性疼痛対する薬物療法(プレガバリン、ミロがバリン:タリージェ、三環系抗うつ薬(TCA):トリプタノール、トフラニールなど )が行われる。
◆脳卒中後疼痛は難治性であることが多く、患者さん一人ひとり感じ方が異なる(患者さんにしかわからない痛み)。そのため治療において、患者さんの求めるゴールと医療者の考えるゴールが異なることが多く、治療の妨げとなることもある。治療前にこれらの認識の共有が望ましい。