2023年10月12日(木曜日)『令和の消化器外科診療と将来展望』南加賀学術講演会
2023年10月12日(木曜日)小松市、能美市、加賀市学術講演会
特別講演 『令和の消化器外科診療と将来展望』
演者:金沢大学 消化器外科 教授 稲木 紀幸 先生
座長:国民健康保険 小松市民病院 外科 診療部長 塚山 正市 先生
外科は、多くの患者さんにとって、命の最後の砦でありますが、普段、外科に関する講演を聞く機会はほとんどないので、稲木先生のお話はとても新鮮でした。
◆ 消化器外科手術は、開腹手術から、腹腔鏡下手術、ロボット手術へと確実に進歩しており、外科の先生たちはその技術をマスターしようと、日々必死に研鑽していることを強く感じました。
◆ しかし、手術ロボットが導入されている病院は限られており、今後、ロボットのない病院では十分な数の外科医を確保することが難しくなるかもしれません。またロボット手術ができる病院に患者さんが集中し、病院間の格差拡大につながる事が容易に想像されます。
◆ そして、南加賀の住人にとって朗報です。小松市の小松市民病院にも、手術ロボットが導入される事が決定したそうです!とても楽しみであります。
◆ 薬物療法(H2ブロッカーやPPI)によって逆流性食道炎の治療は劇的に進歩したが、高度肥満や加齢により固定した姿勢(亀背など)による、難治性症例が存在する。
◆ 難治性逆流性食道炎に対して噴門形成術が行われる。内視鏡的噴門部粘膜焼灼術 (ARMA)も保険適応となったが、外科的治療より効果は限定的。
◆ 日本では食道がんの87%は扁平上皮癌、腺癌は5%のみ(欧米では逆の比率)。食生活の欧米化や、ピロリ除菌の普及に伴い、日本でも食道腺癌が増えつつある。
◆ 扁平上皮がんは中部食道に多く、腺癌は食道胃接合部(以前は腹部食道と呼ばれていた)に多い。
◆ バレット食道とは、食道の扁平上皮が胃酸逆流によって障害され、治癒の過程で胃の円形上皮に置き換わったものである(異所性胃粘膜)。年率約1.2%で、バレット食道からの発がんが見られる。
◆ 食道がんはStageⅣでは、5年生存率が約20%と予後が悪い。
◆ 2020年台より、食道癌の治療に免疫チェックポイント阻害剤が使用されるようになり、Conversion手術(手術不能であった癌が手術可能な癌となる)が増えた。
◆ ヘリコバクター・ピロリ感染により、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)が増加する。ピロリ保菌者はピロリ除菌が推奨されている。(ピロリ検査は胃カメラを受けた場合のみ、保険診療として認められている)
◆ ピロリ保菌者の減少(若年世代ほど低い)、およびピロリ除菌の普及に伴い、胃がん患者数はゆるやかに減少している。
◆ しかし、ピロリ除菌後にも、胃がんは発生する(除菌後胃がん)。除菌後も定期的な胃がん検診は必要。
◆ 胃がんの約60%は早期がんとして発見され主に手術が行われる。約40%は進行がんとしておもに化学療法が行われる。
◆ 胃がん治療の長期予後は、開腹術と腹腔鏡下手術において差がないことが報告された。
◆ 20-30歳台に多い炎症性腸疾患は、重症例では大腸切除術が必要となる。
◆ 難治性痔瘻を有する若年者は、クローン病の可能性が高い。
◆ 中毒性巨大結腸症などの難治性症例において、大腸切除術が必要になることがある。
(回腸嚢肛門吻合術など。多くは2期手術となる)
◆ 将来の外科診療を維持するためには、若い外科医の教育が今後の大きな課題となる(一人ひとりの外科医のこなすべき仕事とマスターするべき技術が多すぎるのは間違いないです)