2024年1月24日(水曜日)小松市、能美市、加賀市学術講演会 『フレイルと過活動膀胱』
2024年1月24日(水曜日)小松市、能美市、加賀市学術講演会
特別講演 『フレイルと過活動膀胱』
演者:医療法人 好誠会 西野クリニック 院長
岐阜大学医学部医学科 客員臨床系医学教授 西野 好則 先生
座長:小松市民病院 泌尿器科 診療部長 北川 育秀 先生
◆ 日本は圧倒的な超高齢社会であり、少子化対策とならんで、高齢者が元気で働き続けることが大事である。
◆ フレイルとは、加齢とともに心身が衰え、要介護となる一歩手前であるが、適切な対応をすれば健常に戻ることができる状態を指す。虚弱、もろさなどの意味を持つFrailtyから由来する。
◆ フレイルは体重減少、筋力低下、疲労感、歩行速度低下、身体活動低下などを特徴とする。
◆ フレイルは多岐にわたる:Physical(肉体的)、Mental(精神的)、Cognitive(認知的)Social(社会的)、Oral(口腔)、Uro(泌尿器)、Eye(眼)、Skin(皮膚) 特に社会的フレイルを回避するための、社会的共生は要介護状態を防ぐ最後の砦である。
◆ 泌尿器的フレイルの最も特徴的な症状は尿失禁であり、認知症、転倒/骨折に並ぶ3大老年症候群の一つである。
◆ 尿失禁に要する介護の手間は他のものに比べても大きく、今後普及するであろう介護ロボットでも対応が困難である。
◆ 尿失禁の原因:DIPPERS:Delirium(せん妄),Infection(感染),Pharmaceuticals(薬剤性), Psychological(精神的),Excess fluid(多尿),Restricted mobility(運動制限), Stool impaction(便秘)
◆ 前立腺肥大症に伴う症状が多い人ほどフレイルになるリスクが高い。
◆ 男性ホルモンが多い人(活力にあふれた人が多い)でサイズの大きな前立腺肥大症が見られるが、前立腺肥大症のサイズとフレイル発症リスクには関連がない。
◆ 過活動膀胱はフレイルとの関連が注目されている。
◆ 過活動膀胱をもつ患者さんは、尿失禁を回避するため早め早めに排尿する。その結果膀胱容量がより小さくなり、過活動膀胱の症状が強くなる悪循環に陥りやすい。早期の過活動膀胱は放置するべきではない。
◆ 過活動性膀胱(OAB)診療ガイドライン第3版が2022年に公開された。専門医向けと区別された一般医向けアルゴリズムが示された。
◆ 一般医向けアルゴリズムでは、基本評価を行ったうえで、血尿、膿尿、残尿(≧100ml)があれば専門医へ相談することが推奨されている。
◆ 過活動膀胱診療における、一般医の基本評価:自覚症状の問診〔下部尿路症状:蓄尿症状(過活動膀胱症状),排尿症状,排尿後 症状〕,過活動膀胱症状スコア(OABSS),病歴・既往歴・合併症,服薬歴,水分 摂取習慣,身体所見・神経学的所見,検尿,残尿測定。(なかなかvolumeがあります。尿沈査の記載はありませんでしたが、変形赤血球の有無、膿尿の確認に有用であると個人的に考えます)
◆ 悪性腫瘍や尿路結石、下部尿路の炎症性疾患、子宮内膜症などの膀胱周囲の異常、多尿、ストレスは過活動膀胱の原因となる。
◆ メタボリック症候群や生活習慣病は過活動膀胱を合併しやすい。特に女性糖尿病患者さんの53%に過活動膀胱を併発している。
◆ 糖尿病治療薬であるSGLT2 阻害薬は多尿、高濃度糖尿を来すため、過活動膀胱や包皮炎の発症に注意が必要である。
◆ 外科的治療が必要な重症包皮炎も増えており、特に高齢糖尿病患者さんの診察時には、外陰部の観察も行うのが望ましい。
◆ 過活動膀胱治療として、抗コリン剤が長年使用されていたが、口内乾燥、羞明、便秘に加えて、認知機能低下を引き起こす可能性があるため高齢者に使用する際は注意が必要である。
◆ 高齢者の過活動膀胱患者さんを治療する際には、ビベグロン(ベオーバ)などのβ3アドレナリン受容体作動薬を第一選択薬とするのが安全である。