2025年10月23日(木曜日)小松市、能美市、加賀市学術講演会 特別講演 『成人肺炎球菌ワクチンの今とこれから~キャップバックスの登場に対する期待~』
2025年10月23日(木曜日)小松市、能美市、加賀市学術講演会
特別講演 『成人肺炎球菌ワクチンの今とこれから~キャップバックスの登場に対する期待~』
座長 やわたメディカルセンター 呼吸器内科 片山 伸幸 先生
演者 NTT東日本伊豆病院 川上 健司 先生
◆肺炎は日本における死因の第5位であり、高齢化社会において重要な労働力である人々に対しての脅威である。
◆肺炎球菌は、市中肺炎、院内肺炎ともに原因細菌として最多である。
◆肺炎球菌による感染症は、乳幼児および、65歳以上の高齢者にピークがあり、それぞれ重大な問題である。
◆肺炎球菌はポリサッカライドによる莢膜を持つ双球菌であり、ヒト粘膜上で安定して生きられるように進化した。(自然宿主はヒトのみ)
◆莢膜の型(血清型)は100種類以上存在し、血清型によって病原性が異なる。
◆肺炎球菌は、免疫が未成熟である乳幼児の鼻咽腔に高率に定着する常在菌で、飛沫感染による伝搬する。そのため集団生活を始めたほぼすべての幼児は肺炎球菌と共生している。
◆肺炎球菌が常在するだけでは問題ないが、風邪などで粘膜バリアの損傷が起こると、体内に侵入して肺炎や中耳炎、副鼻腔炎を起こす。
◆そのため、COVIDやインフルエンザ感染後に急速に肺炎球菌感染を発症することも多く、リスクが高い方は、それぞれのワクチン接種が望ましい。
◆本来無菌である部位に菌が検出される侵襲性肺炎球菌感染症(invasive Pneumococcal Diseases: IPD):髄膜炎、菌血症、敗血症、血液培養陽性の肺炎が起こると致命率が高い。
◆2000年代初期には、肺炎球菌感染症(特にIPD)は、世界で年間約80~100万人の5歳未満児の死亡原因であった。
◆IPDは、5類感染症全数把握疾患であり、医療機関には届け出義務がある。
◆日本では、小児用肺炎球菌ワクチンが2010年に任意接種として始まり(PCV7→PCV13)、2013年4月1日から定期接種となった。(現在はPCV15:バクニュバンス もしくはPCV20:プレベナー20)
◆ワクチン導入後は小児の侵襲性肺炎球菌感染症は70~90%減少した。
◆小児肺炎球菌ワクチンによって、乳幼児が有している病原性の高い肺炎球菌が減少し、乳幼児から高齢者への伝搬が減少する。その結果、間接的に高齢者の肺炎発症抑制効果もみられる(集団免疫)。
◆米国では、小児肺炎球菌ワクチン導入により、このワクチンを接種していない高齢者の肺炎球菌感染症が65%も減少したとのデータもある。
◆小児肺炎球菌ワクチン導入により、ワクチンでカバーされている血清型は乳幼児の鼻咽腔で減少したが、ワクチン型以外の血清型が増加(血清型置換:serotype replacement)し、これらによる感染が問題となっている。
◆そのため、高齢者肺炎球菌ワクチンは、より広範囲の血清型に対応するものが望まれる。
◆日本では成人肺炎球菌ワクチンは2014年に定期接種となり、対象は、65歳の方、もしくは基礎疾患を持つ60歳~64歳の方である。国の経過措置に基づく5歳ごとの助成制度は2024年3月で終了した。
◆日本での成人肺炎球菌ワクチンは、ニューモバックス(PPSV23)が使用されている。
◆PPSV23は、ポリサッカライドワクチンであり、免疫応答が弱く効果の持続時間は短い。免疫が未成熟である乳幼児には、PPSV23は効きにくい。
◆以前はPPSV23-PPSV23の再接種(約5年後)が任意接種として認められていたが、PCV20:プレベナー20、PCV21:キャップバックスが利用可能となった事より推奨されなくなった。
◆結合型ワクチン(PCV15、PCV20、PCV21)は、T細胞依存型の免疫応答が起こり、メモリーB細胞が誘導されやすい。そのため効果の持続時間は長い。(生涯で1回の接種で完了)
◆結合型ワクチン接種後、PPSV23接種によりブースター効果が得られる。
◆米国では65歳以上の成人に対して、PCV15+PPSV23接種、もしくはPCV20、PCV21の単独接種を推奨している。
◆PCV21:キャップバックスはPPSV23に匹敵する広範な血清型をカバーし、効果が長時間持続し1回の接種で完了する。そのため今後、肺炎球菌ワクチンの主流となることが予想される。
◆日本での成人肺炎球菌ワクチン接種率は30~40%にとどまっており、今後この接種率を上げることが高齢者診療において重要である。
