2025年6月11日南加賀学術講演会 『症例に学ぶ高齢者てんかんの診断と治療』
2025年6月11日(水曜日)小松市、能美市、加賀市学術講演会
特別講演 『症例に学ぶ高齢者てんかんの診断と治療』
座長 粟津神経サナトリウム 院長 小林 克治 先生
演者 東北大学大学院医学系研究科 てんかん学分野 准教授 神 一敬 先生
一般内科では、てんかんの検査や治療に積極的に関わる機会はほとんどありませんが、高齢者診療を行っていると、まれにてんかん症例に遭遇することもあります。今回、神先生のお話を伺い、てんかんに関する知識を整理し直す良い機会となりました。
◆てんかんとは、脳細胞が異常興奮することにより、てんかん発作を繰り返す慢性疾患である。
◆てんかん発作は運動障害(手足が硬くなる)、感覚障害、自律神経障害、高次脳機能障害(おかしな考えや、おかしな記憶)など様々な症状が出現しうる。
◆てんかんの有病率は小児期と高齢期の二峰性である。高齢者においては年齢が上がるほど有病率があがる。自宅生活者より、入院中や老人ホーム入所中の高齢者で多い。
◆高齢発症てんかんでは全般発作は少なく、大部分が焦点発作である。後に強直間代発作へ進行する事もあるが、左右非対称の症状で始まることで焦点発作と判断することができる。側頭葉てんかん(海馬硬化症)が最多。前兆として心窩部のこみあげ感、既視感、未視感、恐怖感、幻視、幻聴がみられ、発作として意識減損発作(一点を見つめたままとなる、発作中の記憶がない)、自動症(口や手指をもぐもぐ動かす、無目的に歩き回る)などの症状がみられる。発作後朦朧状態は数時間から数日続く。
◆てんかん診療の流れ
①診断(てんかんであるか否か)
②発作型の判断
③てんかんの原因検索
④治療
①てんかんの診断
◆てんかんが疑われる場合、てんかんか別の疾患かの鑑別診断が重要である。鑑別疾患として重要なのは、認知症、失神、レム睡眠行動異常(RBD)である。
◆レム睡眠行動異常: レム睡眠中に不快で動きの多い暴力的な夢を実際に行動化してしまう。睡眠中に大声を出す、叫ぶ、横で寝ている人をたたく、ける。50歳以上の男性に多い。神経変性疾患(パーキンソン病、レビー小体型認知症)との関連が強い
◆失神:脳血流低下による意識消失。起立性低血圧、心原性失神、神経調節性失神が多い。失神では姿勢を維持できない。てんかん焦点意識減損発作では姿勢を維持できる。てんかんは通常2-3分の持続時間だが、失神はより短時間。失神でも筋緊張亢進や不規則な筋収縮などのけいれん症状がみられるため、けいれんの有無ではてんかん発作と鑑別できない
②てんかんの発作型
◆2017国際抗てんかん連盟(ILAE)の新しい分類において、呼称が変わった。
- 単純部分発作→焦点意識保持発作(FAS: focal aware seizure)約10%
- 複雑部分発作→焦点意識減損発作(FISA:Focal impaired awareness seizure)約60%(最多)
- 二次性全般化発作→焦点起始両側強直間代発作(FBTCS:Focal to bilateral tonic-clonic seizure) 約30%
③てんかんの原因
◆若年者のてんかんは特発性(原因不明)が多いが、高齢発症てんかんでは脳卒中、脳卒中、認知症、腫瘍、外傷、炎症が原因となる。原因不明も一定数存在する。MRI検査や脳波検査が有用である。
◆海馬の電気的過剰興奮がアルツハイマー病 の病態に関連している可能性が示唆されている。 認知症は側頭葉てんかんの発症リスクを増加し、側頭葉てんかんでは認知症発症リスクが増加する。
④てんかんの治療
◆てんかんは慢性疾患であるため、抗てんかん薬(AED: antiepileptic drug)の呼称も抗てんかん発作薬(ASM: anti-seizure medication)に移行した。てんかんの発作型や、原因、年齢、併存疾患などを考慮してASMを選択する。
◆高齢発症てんかんの治療の場合、ASMは少量投与(標準使用量の1/3-1/2程度)から開始し漸増することは望ましい。
◆従来から使用されてきたカルバマゼピ ンやフェニトインなどは他の薬剤との相互作用が多く、特に高齢者に使用する場合は要注意である。