『超高齢社会における適切な抗血栓療法 ~脳梗塞予防と頭蓋内出血回避を如何に両立させるか~』2023年7月12日(水曜日)小松市、能美市、加賀市学術講演会
2023年7月12日(水曜日)小松市、能美市、加賀市学術講演会
特別講演 『超高齢社会における適切な抗血栓療法 ~脳梗塞予防と頭蓋内出血回避を如何に両立させるか~』
演者:福岡脳神経外科病院 副院長/脳血管内科部長 矢坂 正弘 先生
座長:東病院 院長 東 良 先生
◆ 日本人の脳梗塞の2年再発率は高い(全脳梗塞 5.8%、アテローム血栓性脳梗塞 9.4%)ため、再発予防が非常に重要である。
◆ 脳梗塞再発予防の3つの柱は①リスク管理:高血圧、糖尿病、脂質異常症、禁煙 など ②適切な抗血栓療法 ③外科的、血管内治療 である。
◆ 抗血栓療法には抗血小板療法と抗凝固療法がある。いずれも出血の副作用に注意が必要である。
◆ アテローム血栓性脳梗塞では、アテロームが壊れた部位に血小板が凝集し、血小板主体の白色血栓が形成されるため、予防には抗血小板剤を使用される。
◆ 心原性脳塞栓は、心臓内で血液のうっ滞や内皮細胞機能低下が起こり、凝固反応が亢進し、フィブリンと赤血球中心の赤色血栓が形成される。予防には抗凝固薬が使用される。
◆ ラクナ梗塞(細い動脈である穿通枝に起こる脳血栓症)における予防にも抗血小板剤が使用されるが、偶然みつかった(無症候性)ラクナ梗塞では、副作用を考慮して無治療で経過観察される場合もある。
◆ TIA(一過性脳虚血発作)においても、再発予防効果が期待されるため、抗血小板剤の投与対象になりうる。
◆ アスピリンは、欧米人と比較して日本人において、脳出血発生率を増やす可能性がある。
◆ クロピドグレルにおける脳出血発生率は欧米人と日本人で大きな差がない。
◆ クロピドグレルは、アスピリンと比較して、血管性イベント(脳梗塞、心筋梗塞、心血管死)の累積発生率を低下させた。(CAPRIE Lancet 1996)
◆ クロピドグレルの効果は、CYP2C19遺伝子多型の影響を受ける。日本人の半数程度は、クロピドグレルの効果が低下する遺伝子系を持つ。
◆ CYP2C19遺伝子多型の検査は、費用が高額であり実臨床では通常行われない。
◆ プラスグレルはCYP2C19遺伝子多型の影響を受けない。
◆ プラスグレルは、再発のリスクが高い症例(高血圧、糖尿病、脂質異常症、慢性腎臓病、頸動脈狭窄≧30%)において、高い効果が期待される。
◆ 抗凝固剤は非弁膜症性心房細動において、心原性脳塞栓予防のため使用される。
◆ 英国における、脳梗塞の発症率は2012年頃まで増加傾向であったが、抗凝固剤の普及に伴い、減少傾向となっている。(European Heart Journal 2018)
◆ 非弁膜症性心房細動は超高齢社会において増加している。
◆ 非弁膜症性心房細動とはリウマチ性僧帽弁疾患、人口弁および僧帽弁修復術の既往を有さない心房細動を指す(生体弁による弁置換術後の患者さんも含まれる)
◆ 高齢者において、出血のリスクのため抗凝固剤をためらわれるケースも多いが、エドキサバン15㎎投与は80歳以上の高齢患者群において、有意に脳卒中や全身性塞栓症の発現率を減らした。
◆ エドキサバン15㎎によって出血リスク、特に消化管出血が増えるが、死亡は増やさなかった(ELDERCARE-AF試験)
◆ 直接作用型第Ⅹa因子阻害剤(アピキサバン、リバーロキサバン、エドキサバン)投与中の患者における、生命を脅かす出血または止血困難な出血の発現時の抗凝固作用の中和としてアンデキサネット アルファが使用される。