南加賀学術講演会『腸内環境とサルコペニア』2023年6月14日
2023年6月14日(水曜日)小松市、能美市、加賀市学術講演会
特別講演『腸内環境とサルコペニア~腸能力の活用と亜鉛の重要性~』
演者:富山市立富山市民病院 外科 部長 宮下 知治 先生
座長:国民健康保険 小松市民病院 内科 診療部長 又野 豊先生
宮下先生に腸内環境を良好に維持することの重要性を教えて頂きました。外科手術を行わない医療関係者も、是非知っておくべき内容であると思いました。
◆ ヒトの腸内は地球上でもっとも高密度に細菌が存在する場所である。
◆ ヒト一人の腸内には100兆個の細菌が存在し、ヒトの細胞数(約40兆個)より多い。◆ 腸内細菌の総重量は1㎏を超える。そのため腸内細菌はもう一つの臓器であるとも言われる。
◆ 腸管(小腸のパイエル板など)には生体の70-80%のリンパ球が存在する。
◆ 腸管上皮細胞間リンパ球(IEL:intraepithelial lymphocytes)はサイトメガロウイルスやヘルペスウイルスからの感染を監視する。
◆ 腸管は外傷、熱傷や抗生剤によって容易に障害される。PPIも腸管細菌叢を変えてしまう。
◆ 絶食が続くと、IELがアポトーシスを起こす。
◆ 腸内環境を良好な状態で維持するには腸内細菌層(フローラ)を整える。弱酸性に保つ。腸粘膜自身を鍛える(強化する)事が大事である。
◆ 免疫チェックポイント阻害剤の効果は腸内細菌によって影響される。
◆ 抗PD-1免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬)を受けている患者さんにおいて、抗生剤の使用は生存率を短縮させる。
◆ 特にアッカーマンシア・ムシニフィラ菌はPD-1阻害剤の作用を増強させる。同菌は肥満、や糖尿病、炎症を抑制する効果も報告されている。
◆ 腸内細菌層の比率は 善玉菌(20%)、悪玉菌(10%)、日和見菌(70%)程度。
◆ ディスバイオシス(Dysbiosis)とは腸内細菌叢に異常をきたし、病原性微生物>善玉菌となる状態である。
◆ 善玉菌は乳酸や短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸など)を産生する。短鎖脂肪酸は大腸上皮細胞のエネルギー源である。
◆ プロバイオティクスとは善玉菌を摂取し、数日間体内に滞在させる(生着はしない)ことで、腸内環境を整える作用をもつ成分である。
◆ プレバイオティクスとは、オリゴ糖や食物繊維など善玉菌の餌となる成分である。
◆ プロバイオティクスとプレバイオティクスを組み合わせてものが、シンバイオティクスである。
◆ 代表的なプロバイオティクスには乳酸菌(乳酸を産生)、ビフィズス菌(乳酸、酢酸を産生)、酪酸菌(酪酸、酢酸を産生)がある。
◆ 酪酸は酪酸菌にしか産生できない。酪酸は大腸のエネルギー源として利用率が非常に高い。
◆ サルコペニアとは加齢に伴い、筋肉量が減少することで、歩行速度が遅くなる事で判断できる。(青信号を渡り切れない)
◆ サルコペニアにおいては易感染性も大きな問題となる。
◆ 腸管、肝臓、リンパ球はグルコースでなく、グルタミンをエネルギーとして利用する。
◆ 小腸のグルタミン需要は非常に高く、他臓器より小腸へのグルタミン供給が最優先される。そのため侵襲時などには肝臓やリンパ球へのグルタミン供給が少なくなり、肝障害や易感染性が起こりやすい。
◆ 空腹時にはグルタミンはみずからの筋肉を崩壊し産生される。そのためサルコペニアにおいては筋肉量低下のためグルタミン産生が低下しており、易感染性を来す。
◆ グルタミンは経口摂取すれば消化管に到達するが、血中(門脈血中)グルタミン濃度は上昇しない。
◆ 血中グルタミン濃度を上昇されるには分岐鎖アミノ酸(BCAA)を経静脈投与し、筋肉内でグルタミンに変換させる作用を利用する必要がある。
◆ そのため、周術期などには、良好な腸内環境、肝機能、免疫機能を維持するため、グルタミン、BCAA療法がシンバイオティクスに加えておこなわれる。
◆ 亜鉛は生体内でつくることができない抗酸化物質の一つである。(他、ビタミンE、ポリフェノール、セレンなど)
◆ 肝硬変、糖尿病、慢性炎症性腸疾患、慢性腎臓病で血清亜鉛値は低下する。
◆ 亜鉛欠乏で、味覚異常、皮膚炎、脱毛、貧血、口内炎、男性性器機能異常、易感染性、骨粗鬆症が発症する。
◆ 亜鉛は腸管バリア機能維持にも重要である。
『宮下知治 他: 腹腔内感染症が誘導する臓器障害とその対策:周術期管理からの腸管面膜防御機能強化の重要性 特集:外科感染症対策を念頭においた栄養管理 日本外科感染症学会雑誌 17(2) 2020』