2023年11月9日(木曜日)小松市、能美市、加賀市学術講演会 特別講演 『EBMに基づいた2型糖尿病治療~インスリン・GLP-1受容体作動薬を中心に~』
2023年11月9日(木曜日)小松市、能美市、加賀市学術講演会
特別講演 『EBMに基づいた2型糖尿病治療~インスリン・GLP-1受容体作動薬を中心に~』
演者:糖尿病・内分泌・代謝内科 やすだクリニック 院長 安田 浩一朗 先生
座長:医療法人社団和楽仁 芳珠記念病院 内科部長 若山 綾子 先生
◆ インクレチン(GLP-1、GIP)は食事摂取の際、小腸から分泌されるホルモンであり、血糖上昇時にインスリン分泌を促すが、インクレチンはDPP-4によって速やかに分解され、生体内では数分しか持続しない。
◆ GLP-1作動薬は体内で分解されにくく改良された糖尿病治療薬である。
◆ GLP-1作動薬はSGLT2阻害剤同様、心血管合併症を減らすこと、腎保護作用を示すことが多くの研究で証明された。
◆ 欧米の糖尿病治療ガイドラインでは、メトホルミンが第1選択薬であるが、心血管疾患のハイリスク患者では、メトホルミンと独立してGLP-1作動薬、SGLT2阻害剤を使用することを推奨している。
◆ GLP-1作動薬には、食後のインスリン分泌促進、摂食抑制、消化管蠕動抑制、グルカゴン分泌低下作用がある。
◆ GLP-1作動薬は、視床下部弓状核に働いて、食事開始時に脳内で想定する食事摂取量を減らす効果で満腹感を調節する。
◆ 多くのGLP-1作動薬は皮下注射されることによって確実な血中濃度上昇、効果が得られる。
◆ 注射剤(オゼンピック)も使われているセマグリチドは、内服薬(リベルサス)も利用可能な唯一のGLP-1作動薬である。
◆ リベルサスの吸収率は低い(投与された約1%)が、正しい服用法(内服後30分間絶食)を行えば、オゼンピックと同程度の血中濃度に達することが可能である。
◆ GLP-1作動薬は体重減少効果が強いため、『GLP-1ダイエット』として適応外使用される事が増え、多くのGLP-1作動薬が出荷調整となっている。その結果必要な患者さんに使用しにくい状況が続いている。
◆ リベルサスは、比較的スムーズに流通されており、正しく使用すれば注射製剤と同様の効果が得られる。
◆ ケトン体が、糖尿病性腎症モデル動物において、腎保護作用を示すことが示された。
(Tomita I, Cell Metab. 2020 Sep)
◆ また、肥満で低下するアディポリンがPPARγを介してケトン体を上昇させ、腎保護作用を示す事も示された。(Fang L, iScience. 2023 Apr)
◆ SGLT2阻害剤によってグルカゴン/インスリン比が増加し、脂肪組織で脂肪分解が亢進。産生された遊離脂肪酸が肝臓でケトン体に変わり、ケトン体が上昇する。
◆ SGLT2阻害剤の腎保護作用の一部はケトン体上昇によるものであると考えられている。
◆ GLP-1作動薬の腎保護作用の機序は不明であるが、ケトン体を介したものである可能性が考えられている。
◆ 日本と欧米では糖尿病の患者像は大きく異なる。日本人糖尿病患者さんでは肥満が少ない(日本人DM患者のBMI 23.1、欧米 32.3)
◆ 日本では高齢者の糖尿病患者数が多く、フレイルやサルコペニアの状態の人には、筋肉量を減らさない治療が望ましい。
◆ 高齢者糖尿病患者では低血糖発生のリスクが高いため、多くの臨床医はインスリン治療開始を躊躇し、適切にインスリンが使われていないケースが多いと考えられる。
◆ 糖尿病治療においては、まずインスリン治療開始が必要かを判断する必要がある。(体重減少、高血糖症状、HbA1c>10%、血糖値≧300㎎/dlなど)
◆ 血糖が急速に低下すると糖尿病網膜症が悪化する可能性があり、インスリン導入前の眼科診察は必要である。
◆ 高齢者糖尿病においては、血糖低下作用が発現しないような少量のインスリン注射でも患者さんのADLを改善させる効果がある。
◆ 週3回のインスリン デグルデク(トレシーバ)注射は、他の持続性インスリン製剤の
連日注射と、同程度の効果がみられた(Zinman B, Lancet. 2011 Mar 12)。訪問介護を受けている患者さんや透析患者さんなどでインスリン注射回数を減らせる可能性がある。
◆ 週1回インスリン注射(インスリン イコデク)も承認申請中であり、今後利用可能となる見込みである。
◆ フリースタイルリブレは、一度装着すれ、2週間スキャンするのみで血糖値を測定できるが、今後は近くにアプリの入ったデバイスを置くだけで、スキャンせずに血糖を自動測定してくれる機器も利用可能となる。