2024年3月27日(水曜日)南加賀学術講演会 『アトピー性皮膚炎の長期寛解維持のストラテジー~モイゼルト軟膏の位置づけ~』
2024年3月27日(水曜日)小松市、能美市、加賀市学術講演会
特別講演 『アトピー性皮膚炎の長期寛解維持のストラテジー~モイゼルト軟膏の位置づけ~』
演者:ひふのクリニック人形町 皮膚科 上出 良一先生
座長:小松市民病院 皮膚科 小林忠弘 先生
アトピー性皮膚炎の患者さんの数はとても多いです(自分や、自分の家族もそうです)。
内科でも軽症のアトピー性皮膚炎患者さんにステロイド外用剤を処方することは多く、それで良くなる人がほとんどですが、使用中断で再び悪くなる人もまた多いです。
上出先生のお話で、上手に治療すれば多くのアトピー患者さんがアトピーを気にせず生活することが可能になった事を教えて頂きました。
しかし、アトピー治療薬を、戦略的に(将来中止することも見据えて)上手に使用することが肝要であり、経験のある皮膚科の先生にお任せするのが一番だと理解しました。
◆ アトピー性皮膚炎は,増悪と軽快を繰り返すかゆみのある湿疹を主病変とする疾患であり,患者の多くは「アトピー素因」を持つ。
◆ アトピー性皮膚炎は『皮膚のバリア不全』、『タイプ2炎症』、『かゆみ』の三位一体(悪循環)により起因/増悪する。
◆ タイプ2炎症は寄生虫に対する生体防御反応として機能する一方,アレルギー性炎症の主因ともなっている IL-4、IL-13、INF-γなどが上昇する。
◆ かゆみ時には、 IL-31が上昇している。
◆ これらのサイトカインはアトピー性皮膚炎の抗体製剤治療薬のターゲットである。デュピルマブ(IL-4/IL-13)、ネモリズマブ(IL-31)、トラロキヌマブ(IL-13)
◆ アトピー性皮膚炎患者さんの約30%は、フィラグリン遺伝子変異を持ち、これが皮膚のバリア不全の原因となっている。
◆ 乳幼児期に湿疹を発症すると、皮膚のバリア機能が低下し、その部位から異物が侵入し抗原に感作される。これにより様々なアレルギー疾患が進行する(アレルギーマーチ)
◆ アトピー性皮膚炎において、皮膚のバリア不全はアレルギーに先行していると考えられる。
◆ アレルギーの原因となる抗原は、口から摂取されれば、アレルギー反応を起こしにくい。
◆ 幼少期の皮膚のケアが、その後の人生におけるアトピー性皮膚炎発症/悪化を抑制することができるため、アトピー性皮膚炎の『入口戦略』として重要である。
◆ 親兄弟がアトピー素因(アトピー性皮膚炎や喘息)を有する新生児/乳児においては特に皮膚のケアが重要である。
◆ 長期使用で、皮膚萎縮、多毛、毛細血管拡張、にきび、皮膚線条、苔癬化などの副作用がみられるが、ステロイド外用剤はアトピー性皮膚炎に欠かせない治療である。
◆ ステロイド外用剤の使用量/使用期間を減らすため、ジファラミスト(モイゼルト軟膏)、デルゴシチニブ(コレクチム軟膏:JAK阻害剤)タクロリムス軟膏などの非ステロイド外用剤が有用である。
◆ ステロイドを長期に使用してきた成人のアトピー性皮膚炎患者さんに、いつステロイド治療を弱くして止めていくかという『出口戦略』も重要である。
◆ アトピーの治療目標は、完解状態(薬物治療をあまり必要としない状態、急激な悪化が起こらない状態)を維持することである。デュピルマブ(デュピクセント皮下注)などの新規治療薬の登場で多くの患者さんでこれが可能になりつつある。
◆ アトピー性皮膚炎の治療ゴール達成を阻害する因子として、反復性皮疹、掻把(搔いてしまう事)などがある。
◆ 掻把は皮膚を損傷させ、治癒を大幅に遅らせてしまうが、快感を伴う(嗜虐性掻把)ため、やめられない人も多い。
◆ これらを避けるため、積極的な治療(プロアクティブ療法:強い皮疹が急性期治療で改善したあとも、残っている炎症をなくし再発を抑制するため、外用薬を少量で定期的に使い続ける事)が望ましい。
◆ アトピー性皮膚炎が再発しやすい状態かどうかを判断するため、血中TARC(Thymus and Activation-Regulated Chemokine)の測定が有用である。
◆ アトピー性皮膚炎に関する民間療法、悪質なアトピービジネスで不利益/被害にあっている患者さんも多い。標準治療への移行を説得するのは難しいが、一人一人の思いを丁寧に聞いていくことが大事である。(信頼できる皮膚科医に相談するのが一番)